おそらく当サイト初の米日です。いつも日←米が主食なのに。

 

 

俺が

 

 君の

 

 眼鏡に

  

 なって

  

 あげるんだぞ!

 

 

 ぱちりぱちり。

 黒い瞳が二回、大きな瞬きを繰りかえした。

 自分より頭一つ分低い彼に、俺は問いかけた。

「どうしたんだい?ゴミでも入った?」

「いいえ」

 白い指が真っ直ぐ前、正確には飛行場の出発案内板を指した。

「全日航空の成田行き、何番ゲートなのでしょうか?

 最近老眼が進んだのか、字がぼけてしまって」

「ああ、C34だよ」

 俺が目に映るままの数字を答えると、日本は眉間の皺を解いて小さく笑ってくれた。

「ありがとうございます」

 柔らかい笑顔はいつも、俺の胸をかきむしる。

 可愛い。

 お菓子みたいに甘い、イースターバニーのように柔らかい、優しい笑顔が好きだ。

「帰ったら眼鏡をあつらえなくてはなりませんね」

 見とれる俺を無視して、笑顔の主はそっけなく足を進めた。その言葉が、以前冗談で自分のかけているテキサスを寝ている日本にかけたことを思い出させた。

 

 似合わなかった。

 

 黒いまつげも、ほっそりした輪郭も、噛み付きたくなるキュートな鼻も、無骨なプラスチックと針金で覆われると台無しだ。

「俺は反対なんだぞ」

「でも、年寄りにはコンタクトはきついですよ」

 見上げられた瞳はどこまでも深く俺を吸い込もうとする。レンズ越しじゃきっと、こうはいかない。

 だけど、日本が目を細めてむっつりと遠くをみる姿もいただけない。

 あれは、そう、お説教の時で十分だ。

「じゃあ、日本は遠くを見なければいいんだ」

「そんなわけいかないでしょう?」

「大丈夫だよ」

 ぱっと、雷みたいにアイデアがひらめいた。

 俺って天才!

 さすがヒーロー!

「俺が君の眼鏡になるんだ!

 君の代わりに遠くをみてあげるよ」

「……お心遣いいたみいります」

 言葉使いこそ丁寧だけど、イントネーションは小さな子供に話しかけるようにゆっくりとしたものだった。

「でも、やはり一人で遠くを見られないのは不便です。

 アメリカさんがいらっしゃらないときはどうしたらよいですか?」

 分かりきったことを控えめに、でも偉そうに低音が告げた。

 いつも日本はそうだ。

 俺のほうが体だって大きいし、力だってあるし、頭もまぁ、悪いほうじゃないのに、いつも俺はお子様扱い。

 愛の告白も無邪気な遊びで片付けられる。

 ……まぁ、「子ども」の特権を利用する為に、俺が故意に幼く振る舞っているせいもあるんだけど。

 いつもどおり、俺は無駄な抵抗はしなかった。その代わり、世間体なんか気がつかない無神経な子どもを装って、小さな背中を抱きしめた。

「じゃあ、離れないでいつもこうしていればいいよ!

 君に拒否権はないんだぞ」

「……全く、あなたにはかないませんよ」

 短い苦笑の後、俺の手に小さな手が重ねられた。

 

 

「頼りにしていますよ、私の眼鏡さん」

 

 

 その言葉がどこまで本心なのか、ポーカーフェイスからは読み取れなかった。

 かわいいものに弱い日本。

 かわいくないものには結構冷淡な日本。

 そして俺の外見は残念ながら、かわいらしくはない。

 そんな俺でも、子どものふりをしなくても傍に居ることができるように、願いを込めて腕の力を強めた。