夜は〇〇 思いっきり生じゃぽん!
(英日←米、英日:R15、英日←海)
(5)シー君の警視庁24時
「シー君ですよ!」 シーランドは大声で呼ばわった。しかし、深夜の日本邸では返事をするものは誰もいなかった。 スウェーデンにくっついて足を踏み入れた日本。しかし、時差ぼけに勝てずに空港から市内へ向かうバスでいびきをかいたお子様はそのまま日本の私邸へ連れて行かれ、騒動の間も高いびきをかいていたのだ。 「シー君ですよ!さっさと返事をしないと、皆シー君の独立を認めたことにするですよ、黙認黙認」 イギリスが聴いたら激怒間違いなしの言葉を喚きいらし、遠慮なくふすまを開けていくが、広がるのはトドのように横たわる国々。誰一人として、寝返りすらしない。 「日本!」 いつも優しい友人の部屋を開けるが、そこには占有面積がかなり広いアメリカと、アメリカに追いやられるように隅で身を寄せるイギリスと日本。 「日本?」 子どもは日本の顔を覗き込む。兄の腕の中にあって、日本は規則的な寝息を立てていた。間接照明が照らすその顔は整っていて、まつげは驚くほど長い。 「ねぇ、日本、シー君ですよ?」 再度、耳元で囁くが、友人は起きる気配もない。がっちりと兄の腕に収められている。 ・・・気に入らない。 のんきに眠るイギリスの眉をつねってやったが、小さいうめくだけで目を開けることはなかった。鼻をつまめばうるさそうに顔を揺らすだけ。 ますます気に入らない。 日頃からシーランドは兄と日本の関係が不満だった。 極太変態眉毛のどこがいいのか、何度聞いても日本は曖昧に笑うだけで恋人の悪口は決して言わない。欠点だらけの兄よりも、大人になった自分の方が何倍もすばらしいだろうに。日本はシーランドの成長を待てなかった。 「まぁいいです。いつかリャクダツアイですよ」 部屋をめぐるのにも飽きたシーランドはイギリスと日本の足元に割って入り、日本の太腿を枕に目を閉じた。柔らかい枕に首がぽかぽかと温まり、再び睡魔が襲ってくる。丁度よく目の前にあった兄の足を抱き枕代わりにしがみついた子どもは夢の中へ旅立った。パジャマの裾がめくれ、へそが顔を覗かせているのはちょっとしたご愛嬌だった。
朝、日本が最初しなくてはいけなかったことは、ハンバーガー作りではなく、しびれた足を揉み、痛む腰にサロンパスを貼ることであった。イギリスも長い間蒲団から起きあがることができなかった。 早朝、目覚めたシーランドはさっさとポチを連れて散歩に出かけた。シーランドがイギリスと日本を枕にしていたことは結局、誰にも気付かれることはなかった。なので、イギリスと日本は脚の血流を戻す努力をしながら、しびれや腰痛の原因に考えをめぐらせるしかなかった。 アメリカはゴミ箱を覗き、やがて眉間に盛大に皺をよせたまま挨拶もせずに洗面所に向かう。運悪く、ごみ箱は寝冷えしたシーランドが鼻をかんだティッシュで溢れていた。 「おとなってきたない」 19歳の顔に書かれたメッセージは、日本をひどく叩きのめした。 「誤解された誤解された誤解された! 寝ているアメリカさんの隣でサカッていたって誤解された! やっていませんよ、やっていません!私は無実です! ただ同衾して眠っただけです!やっていません!」 「かまうことねぇよ。 場所が違うだけで頑張ったのは事実だろ。ほら、辛かったら腰さすってやるよ」 イギリスがこともなげに手を伸ばす。その眼を見れば、腰だけですまないのはすぐにわかった。 「何の話でしょう?私は昨日皆さんとさっさと眠りましたよ。何か夢でも見たのでしょう?」 「お前だってイイ、イイってよがってただろう」 「私の答えはすべてイイエですよ。イイなんて言ったことは一度もありません」 「イイエ、じゃなくて『いやぁ。もう許して』は言っていたな。 俺のペニスをギュウギュウ締め付け」 「ああ、私、剣道の練習をしなくては。 真剣で練習するのは久しぶりですね」 イギリスが何か余計なことを言う前に、日本は刀をちらつかせた。 あたりにはイタリア・ヴェネチアーノの淹れるエスプレッソの香りが漂っていた。 |