SADISTIC 19

 

July 4th

 

「今年のお誕生日祝いに、アメリカさんにお部屋を作りました!」

7月4日0時。

うとうとしていた俺をたたき起こした日本が発表した。

「今夜からはそちらで眠りましょう!」

「ほんと?」

眠気が一辺に覚める。

日本の屋敷は部屋が多い。

そして客も多い。

だから客間も複数ある。

でも、数ある客の中で日本から部屋を贈られているのはイギリスだけだった。後の連中はどんなに長期間滞在しても、どんなに頻繁に訪問しても、通されるのは客間のどれかだった。

それは俺も同じ。

毎回、着替えの詰まったバックパックを背負う俺の横をすり抜け、ビジネス鞄ひとつで日本の家に上がるイギリスが羨ましかった。

だから、俺の部屋をもらえると聞いてからの第一声が、疑問詞つきであっても許してほしいんだぞ。

「ええ、アメリカさんに内緒でこつこつ整えたんですよ。気に入って頂けると嬉しいのですが」

「うゎ!嬉しくないわけないよ!

 嬉しいよ!うれしいよ!」

 やっと、俺も日本の家族になれたんだ!

 こんな幸せなことってないんだぞ。

「ありがとう!こんな嬉しい誕生日プレゼントは初めてだよ!」

「私もこんなに喜んでくださると嬉しいです」

 俺達は力いっぱいハグをしあった。

 

 

イギリスが先導して連れて行ってくれた部屋は、襖ではなくドアがついていた。

「お前にも、プライバシーくらい必要かと思ったんだ」

イギリスから出る冷静な言葉に、俺は時の流れを感じた。

昔は過保護で、何でもコントロールしたがった兄だった。彼の理想はいつでも、思い通りになる幼児の頃の俺で、育ちきった俺なんか嫌悪の対象ですらあったのに、今はこうして大人の俺を尊重できるようになった。

昔と同じ関係には戻れないけれど、これからは大人同士の家族関係を築けるのだろう。

「あ、ありがと」

感謝の言葉はついどもってしまった。

開いたドアの向こうには、白木の家具が並んでいる。

『ドラ〇もん』の学習机、洋服ダンス、本棚にカラーボックス。

日本の典型的な子供部屋だ。

「押入れを大きめに改造しましたから、『ドラえ〇ん』みたいに寝ることも出来ますよ」

「わお!最高だね!」

がらり、と勢いをつけて開いた押入れには蒲団が敷いてあった。漫画の世界そのままのベッドに俺は狂喜し、さっそく中へあがりこんだ。凝り性の日本の改造らしく、枕元には小さな戸棚、押入れの天井には小さな電球まで備えられている。ふかふかの蒲団からはお日様の匂いがして、俺は両腕を広げて弾力を楽しんだ。

「すごい、本当にド〇えもんみたいだぞ!

あれ?」

戸棚の中に何かがあった。

早速ランプをつけ、つかんだそれは、ボトルだった。ピンク色の文字が躍るそのボトルは、今まで俺が親しくなる機会のなかった液体。

そして、その後ろにはティッシュボックス。

その下には水着の女の子がグラビアを飾る雑誌があった。

「……なんだい、これ?」

「ああ、アメリカさんもお年頃でしょうから、夜のおやつも必要かと思いまして僭越ながら用意いたしました」

「……なんで、君たちが」

「お前も俺たちの目を気にすることなく心置きなく一人遊びしたいだろうって、この兄心がわからないのかよ」

赤面する日本と、何故か怒り出すイギリス。

なにがなんだかわからない。

「気がついてあげられなくてごめんな」

「ええ。アメリカさんもお年頃だって忘れてました。

まさか、私達の夜の、あれ、を盗み聞きしなくてはならないほど、不自由してらっしゃると思わなくて…。

ああ、切腹モノです」

盗み聞き?

そんなことをした覚えは無いんだぞ。

あ、ひょっとして……。

俺は唐突に思い出した。

 

 

先月のある金曜。

一週間も長引いた会議でくたびれ果てているのに、お盛んな二人の声は夜中まで続いた。寝入ろうとするたびに、大声であえいだり、笑ったり。ポチ君も目をパシパシさせて困っているし、意を決した俺は彼らの寝室に向かって叫んだのだ。

『少しは自重してくれよ!』

 

 

それだけなのに。

二人は勝手に、俺が盗み聞きしているものと思い込んでいる。

ううん、きっと、それ以上のこともしていると疑っている。

「先月のあれは、君たちがうるさくてどうしようもなかっただけだよ!聞くつもりなんかあるわけないだろ」

「嘘つくなよ。

 日本のエッチな声にも悪い悪いと思いながらはぁはぁしてたんだろ。

 でももう大丈夫だ。

この部屋は防音対策もばっちりだ。外の音も聞こえないし中の音も漏れない。

どんなDVDだって大音量で楽しめるぞ。

べ、別にお前の為じゃないからな!ただ、お前が気の毒なだけで揃えてやったんだからな」

イギリスが胸をはった。

「俺だって君たちの変な声なんか聞きたくないよ」

「隠さなくてもいいのですよ。

飢えてしまえば保健の教科書でも、辞書にある特定の単語の項目でも、ジジイの情事でも飛びつくのが中学男子ってものです」

「そんなアホな男子いないよ!

それにおれは中学生じゃないよ!」

俺のツッコミは日本とイギリスには通じない。

日本は赤面して俯きながら、イギリスは意地悪く唇を吊り上げながら、同時にため息をついた。

「アメリカも大きくなったなぁ」

「アメリカさんも大きくなりましたねぇ」

そして、二人はしみじみと俺を、というか俺の下半身を見つめてくるのだった。

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