「日本、お前、俺に渡すものあるんじゃないか?」 「?」 俺の問いかけに、カレーライスを頬張る日本の顔が歪んだ。
俺が思うよりずっと、
2月14日。 恋人たちの日。 俺の家でも他のヨーロッパの国々と同じく、恋人たちが互いにプレゼントやカードを贈りあう。 今朝、俺もちゃんと枕元に薔薇をおいて、目覚めた日本を喜ばせた。勿論カードは俺の国式に「From your secret admirer」にしたけれど、薔薇の香りをひとしきり楽しんだ後、日本はかすかに頬を赤らめて、狸寝入りをする俺の額にキスをくれた。 毎年恒例でも、いつも胸が高鳴るバレンタインの朝。 そして日本は俺へのプレゼントとして、昼食にカレーを作るのが常だった。 『だってあなた、カレーお好きでしょう』 確かに日本のカレーは美味いが、あの匂いは情緒に欠ける。俺の欲しいものは日本式バレンタインデーの贈り物だ。 「ほら、あれだ、えーと、2月の14日の名物というか、製菓会社の陰謀というか、まぁ、食後に甘いものが出ても別におかしくないぞ」 「・・・・・・うちでは、バレンタインデーは女性が意中の男性にチョコレートを贈る日なのですよ。残念ながら私は男ですから」 「別に、お前からチョコレート欲しいなんて、ちっとも全くこれっぽっちも思ってもないんだからな」 「ああ、そうですか」 あからさまな困惑に耐えかね、俺は憎まれ口をたたいてしまった。日本は日本で眉を寄せ、会議で見せる仏頂面でさっさとカレー皿を片付けだした。 朝、俺たちを包んでいた甘い甘い空気はどこに流れてしまったのか。 「さぁさ、私は皿を洗いますからイギリスさんは駅前の映画館の上映スケジュールをネットで調べてくださいな」 「・・・・・・言われなくても、そうつもりだったんだけどな」 日本の書斎へ向かう俺の背中に、低音が追いかけてきた。 「そうそう、ネットに繋いで、暇だったら『カレーの隠し味』で検索してみてください」 何を言ってるんだ?日本は。 あのカレーのレシピが特別なのか? 俺はさして何も考えずに『カレーの隠し味』で検索をして、上位に出てきたランキングのサイトを開いた。
1位 りんご 2位 牛乳 3位 にんにく 4位 蜂蜜 5位 醤油
醤油を除けば、俺の家のカレー料理でも使っているような材料だ。 さして興味も覚えずに上位から眺めていた俺の目がランキング6位で留まる。
『6位 チョコレート』
「これって、」 日本はバレンタインデーの昼食に、いつもカレーライスを作る。 『だってあなた、カレーお好きでしょう?』 しれっと言っておいて、これはないだろう。 もう、映画になんか行かない。 今日は一日、日本を可愛がって過ごしてやる。 うんとキスして、抱きしめて、愛しているって囁きあう。バレンタインデーはそういう日だ。 聖バレンティヌスよ、俺はあなたに感謝する。 俺はパソコンを開いたまま、台所でじたばた赤面しているだろう恋人の元へと駆けていった。
参考:http://ranking.goo.ne.jp/ranking/013/curry_flavor/ 時系列では「From your secret」→「俺が思うより」→「最愛の」
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