夜は〇〇 思いっきり生じゃぽん!

(英日←米、英日:R15、英日←海)

 

(1) おじいちゃんといっしょ(英日←米)

 

 会議場の彼の資料に紛れ込まれた手紙を見つけたのは俺だった。

クリーム色をした厚手の上質紙の封筒。表には日本の名前が丁寧にしたためられていた。差出人欄には、最近彼によく話しかけている男の名前があった。

日本は封筒の端を折り、器用に封を開けた。そして中の手紙を開く。

「何だい?ラブレター?」

 半ば冗談で口にした質問は答えを与えられずに宙に浮く。受取人は手紙を握り締めたままつかつかと廊下へ向かった。途中、トルコからマッチを借りた彼の行き先は喫煙所だ。

午後五時を回った喫煙所には、誰の姿もなかった。日本は受け取ったばかりの手紙を引き裂き、マッチを擦った。

 ゆらり。めらり。

 ステンレスの灰皿の上で、短冊に裂かれた上質紙が燃え上がる。ブルーブラックの流麗な筆記体は炎に呑まれ、夕暮れの赤い大気に消えていく。数年間の思いは数日かけて形になったのに、消えるのには三分もかからなかった。

「君はひどいな」

 俺の言葉に、マッチの柄で灰を崩していた日本が顔を上げる。吸い込まれるような重力を持つ黒い瞳には、今は何の感情も読み取ることが出来ない。

「君にその気がなくても、かわいそすぎやしないかい?」

 俺の呼びかけには、多少の棘がふくまれていたと思う。

 日本とイギリスは、そういう関係にあった。

 このことは皆が知っているのに、それでも想いを伝えずにいられなかった差出人が少しだけ不憫だった。

「申し訳ないとは思っているのですが」

日本の低い声からは罪悪感がにじみ出ていた。喫煙所の窓から見える夕暮れの街に、黒髪で縁取られた細面が溶けてしまいそうだ。薄い唇がゆっくりと動く。

「でも、仕方がないでしょう。

私にはイギリスさんがいるのですから」

 毅然とした声には、少しの迷いもなかった。

 差出人と日本の間に、その後何があったのかは知らない。でも、確実に言えることはひとつあった。

 差出人は、友人の地位すら失ったということだ。

 

 

 八月の湿った熱気が、不快に肌にまとわりついてくる。だが、何人もの客で溢れる和室には奇妙な冷気が漂っていた。

 食卓にはコーラとピザ、テレビ画面にはミス・貞子。

 怖がる俺の横には無表情で画面を見つめる日本。珍しくTシャツとジーンズのラフな格好だ。

 会議後の余興は日本の屋敷でのホラームービー鑑賞会だった。有名なジャパニーズホラーを観る機会に、軽い好奇心から参加をした国々は今、猛烈に自分の判断を後悔しているだろう。中国は「中元節にホラー映画なんて、何か恐ろしいことが起きるに違いないあるよ」と言い捨て、同じく仏教国の韓国や台湾を連れて帰っていったけれど、単に日本の映画が怖かったのだろう。中国の青ざめた顔の意味を、皆今頃になって理解している。

 ぐわん。

 長い黒髪を引きずり、井戸から貞子が身を乗り出してくる。

 何度も見たシーンなのに、恐怖に慣れることはない。今回も俺は、思わず隣に抱きついた。

「トゥースケアリー!」

「おやおや」

 日本は軽く眉を上げ、俺の頭に手を回した。

「怖くないですよー。ちっとも怖くないですよ」

 その声に少しばかりからかいの色を見つけ、むっとした俺は虚構の恐怖から現実へ戻される。  

 貞子はテレビの中で、俺の腕の中には日本。黒い柔らかい髪から漂う柑橘系のシャンプーの香りが鼻腔をつく。夏だというのに腕の中の体温が心地よかった。

「怖がってなんかないんだぞ!俺はヒーローだからね」

 わざと大声をあげ、小さな生き物を抱きしめる。それは細く、柔らかく、俺とは全く違う成分で出来ているようにすら思える。かわいらしさに、俺の心臓は抱きしめるたびにフォルテシモで鳴り響く。

「ちょっと、長えよ!」

 俺の心臓よりも大きなキンキン声が、綿菓子のように甘いひと時を打ち砕いた。

 俺の背後でイギリスがわめいている。

 顔を赤らめ、全身で怒る様子はまさしく喧嘩中のネコだ。なんとなく蜂蜜色の癖毛も逆立っているように見えた。

「日本にセクハラすんじゃねぇ!」

「セクハラ?親父くさい想像だね!」

 俺は鼻で笑ってやる。それから、腕の力を強めた。

「俺は単に怖いだけなんだぞ!君とは違ってセクハラなんかしないんだぞ。

そもそもセクハラって発想自体が親父なんだよ。変態」

「なんだとぉ!」

「はいはいはい。お二人とも落ち着いて」

 騒動の元凶はのんきに仲裁に入った。にこにこと優しい、ママのような笑顔。そして、俺は続きの言葉を知っている。

「イギリスさん。アメリカさんは、おじいちゃんに抱きついている孫みたいな気分なのですよ。

ね?アメリカさん」

 聡い俺は自分の役割はわかっていた。だから、ボーダーを越えてすべてを失うような真似はしない。

だけど、俺はアメリカ。俺はヒーロー。ただでは転ばない。

「おじいちゃん、アイスくれよ!おなかすいたんだぞ!」

 日本の細い首にしがみつけば、『おじいちゃん』は呆れたようにため息をついて、それでも俺のためにアイスを用意してくれる。柔らかな身体を抱えて俺はアイスとホラー映画を両方楽しむという寸法だ。イギリスは後ろで歯軋りをしているけれど知るものか。

 孫は子供よりも可愛い、とは日本で有名な司会者「みわもんた」の弁。

 俺は思う存分、孫の立場を楽しませてもらうつもりだ。

 

(2 幕間1 独占!男の90 (英日。英つぶやき。R15) 
4 突撃!隣の晩御飯(夜のおかず編)(英日:R15)    

日本はイギリスへの操を立てるために、言い寄られると極度に拒否しそうという妄想。イギリスしか知らないのが誇り。
純潔貞淑も過ぎればヤンデレです。メリカはそれに気がついているので好きと言えないし、恋なんて思いもつかないふり。じつはおとなです。

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