学ヘタ。米目線。 学ヘタ世界ではおそらく存在しない卒業式設定。 引きこもりの日本を学園に連れ出したのはアメリカ。 でも、日本が今付き合っている(学生結婚もしている)のはイギリス。 そして英日←米。
早朝についてしまったのは、身体に染み付いた習性のせいだ。 卒業式の朝、俺は7時に学園に到着した。普段、バスケの朝練でこの時間に登校するからだ。 でも、今日は卒業式。朝練をする部活などなかった。 今更家にも帰るわけにも行かず、俺は自販機のコーヒーを片手に屋上のドアを開けた。 この遠くまでよく見晴らせる屋上もこれで最後。
春にして君を思う
屋上には先客がいた。 金網越しの街へカメラを向けている影。シャッター音。 ゆらり、と黒髪が揺れてこちらを向いた。 「ああ、アメリカさんでしたか。おはようございます」 片思いの相手の微笑が、そこにあった。 「ほんの感傷なんですけどね」 写真撮影の理由を尋ねた俺に、日本は深い低音で答えた。 「何年か後にここへ来ても、きっと見えるものは違うでしょう。 たとえ同じ景色であっても、そのときの私にはきっと、今の風景と全く同じには感じられないと思うんです。 だから、今のこの瞬間を、写真の上だけでも永遠にしたいんです」 俺達は床に座って、空を見上げていた。 卒業式は毎年気持ちよいくらいに晴れる。 俺も日本もジャケットを脱いで、春の太陽を浴びていた。 「君はなかなかロマンチストだね」 「そうじゃなかったら、今時学生結婚なんかしませんよ」 細い指には金色の指輪が輝いていた。 相手は俺以外の男。 18歳の誕生日に二人で役所に行ったのだと、生徒会で自慢したイギリスを思い出す。卒業式を終えたらイギリスの本国で一緒に暮らすのだと、航空券を見せびらかしていた。 「アメリカさんは冒険好きですが、ロマンチストではないですね。 浮いた噂がひとつもないのですから」 「なんだい、それ。 君が俺の告白を受け入れていてくれたら、浮いた噂はできたのにさ」 膨れる俺の顔に向けられるレンズ。カシャリ。 「私がものめずらしかっただけでしょう? アメリカさんはまだお子様だから」 「なんだい、まったく、少しくらい年上だからって。 俺が迎えに行くまで引きこもっていたくせに」 「はは。そうですね、まぁ今でも引きこもるのは大好きですが。 これからはそうも言ってられませんけどね」 ふうわりとした微笑に俺の胸が締め付けられた。 学園を出れば社会が待っている。 同居でもしない限り、お互い毎日顔を合わせることはないだろう。 「おや、もう登校してくる方々がいますよ」 日本が地表へレンズを向けた。その背中が作った一瞬の隙に、俺の手が動いた。 Sサイズのジャケット、第二ボタンを引きちぎる。 丸いボタンはすっぽりと俺のポケットに隠れた。 かすかな熱を生み出しながら。
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