タイミング悪く、英日の猫ごっこに出くわしたメリカ視点。英日←米
「にゃーっ」て言っているよこの爺さん! 「Miaow」って、君、イギリスだよね、元ヤンキーで紳士のイギリスだよね?アパートメントの三階に住んでいる幼稚園生のトム君じゃないよね? 「イギにゃん」って、日本、君正気かい?相手は変態おやじだぞ! 「おやすみにゃ」ってイギリス今の語尾なに?
「にゃ」って、
「にゃ」って、
「にゃ」って!!!!!
定員は猫二匹
俺は呆然として二人のやり取りを聞いていた。 日本からイギリスの訪日を聞かされていた俺は、中国に仕事で出かけたついでに日本に立ち寄った。二人の甘い時間を邪魔してやろうというわけではなくて、ただ今度日本で売り出し予定の携帯端末の前評判が気になっただけだ。 そして、勝手知ったる日本の家に入り込んだ俺の耳に飛び込んできたのは、怪奇!猫爺の会話だった。 やがて、一方の鳴き声が小さな寝息に変わった。 「にゃーん」 甘えた声で日本がイギリスに抱きつくのが見えた。 ひとつの毛布に二人で包まって、ひとつの座布団に頭を乗せて、猫の真似をする気色の悪い老人たちが寝る。まるでお互い以外は必要ないと言わんばかりに、陽だまりは二人の世界。 「わん」 気を使ってポチが俺に走り寄って挨拶をしてきた。 「君も避難してきたのかい? ニャーニャー言い合って、最悪の変態たちだね」 俺はフワフワした犬の頭を二度撫でて、足音を立てないように玄関に向かった。 「じゃあね、日本」 挨拶は声に出さずに。 今の茶の間は二匹だけの世界だろうから。 毛布の定員は二匹まで。 そろり、そろり、三歩歩いたところで、背後で動く気配がした。 「おや。アメリカさん」 茶の間の襖の向こうから声がした。少しだけ開いた襖からは、俺の姿が見えるのかもしれない。 「お昼寝するなら、毛布もっていらっしゃい」 「ああ、でもさ」 遠慮がちに頭を襖の隙間に突っ込むと、日本はちらりと一瞥をくれた。 「お日様が気持ちいいですよ」 そう言うなり、また目を閉じてしまう。 つがいのイギリス猫に包まれて、日本猫は眠りに落ちていった。 毛布を持った俺が隣に横になっても、目を覚ます気配はなかった。 「俺には、アメニャンさんって、言ってくれないんだな」 ならば、昼寝に呼ばなきゃいいのに。 中途半端な優しさは罪だ、なんて陳腐なポップスのような台詞が浮かんでくる。 「謝罪と賠償を要求するんだぞ」 俺はそっと、黒髪から覗く白い額を唇で触れた。 暖かい額は思ったよりもなめらかで、唇を離すのにかなりの自制心を消費した。
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