「朝、下駄箱では確かにボタンはあったように思います。

 歩いて暑くなったので、前を開けたのですから」

 俺達は彼の登校からの足取りをたどった。

 屋上のあとは軽音楽部の部室。

 コーラとポテトチップスの袋が転がり、CDが散乱している落書きだらけの汚い部屋。およそ綺麗好きな日本には似合わない。

「君、こんなところも撮影したの?

 君、ここに来たっけ?」

 知らないふりをして俺は尋ねた。

 イギリスの趣味は刺繍とベースだ。日本を連れて、ここへもよく生徒会の合間に息抜きに来ていたのだろう。双子の弟と一緒に遊びに着た俺も、一度二人と鉢合わせしたことがあった。

「アメリカさんは、少しは歌上手になりました?」

 日本がデスクに置かれていたマイクを俺に向けた。

 

「『陽気なときは ハンバーガー』」

 

 低音のリズムが狂ってる。そうじゃない。もう少しテンポよく。

 

「『病気のときもハンバーガー』」

 

 自然と俺の唇から歌詞が漏れた。

 

「『俺がこの世界のヒーローさ』」

 

 フレーズの間にシャッター音がこだまする。

 おどけて手振りをつければ、日本は手を叩いてくれた。

 結局、この部屋でもボタンが見つかるはずはなく、次に生徒会室へ向かった。

 

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